Obaro Ejimiweは、掴みどころのないアーティストである。自身のミュージシャンとしての名義はGhostpoet 。複数の系統の音楽の影響が複雑に絡み合う、他に比類するものがないような作風を持つ。その主な構成要素を大まかに言うと、口語で書かれた詩、ヒップ・ホップとエレクトロ、ということになるが、それ以外にも繊細な魅力がたくさんある。これでは、レコード・ショップの店員はこの作品をどのセクションに分類すればいいのか若干戸惑うのではないだろうか。
彼の初のフルアルバムPeanut Butter Blues and Melancholy Jam から丸一年が経つが、この一作は、定評のあるレーベルBrownswood Recordingsからリリースされているが、この会社をあえて経営、プロデュースするのは、メイン・ストリームでないものを好み、自身も大の音楽マニアであるGilles Petersonである。この作品によってObaroは、かのマーキュリー賞にノミネート―表舞台へ立つきっかけとなった。また、注目度の高いMetronomy やJames Woonといったアーティストのライブの第一部で演奏する機会を得たことも、彼の成功に一役買っている。
「僕は小さいときからずっと音楽の虜だった。」Obaroはこう語り出す。電話の向こうで、外出のために彼がロンドンのアパートに鍵をかける音が同時に聞こえた。「だから、作曲することは僕の人生の中で当たり前の次のステップだったんだ。」確かに、このステップを踏むのを彼はとくに急いでもいなかったようだ。ミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたのは20代後半になってからで、彼の音楽の多くには彼の体験してきたことが生かされている。「僕個人に関して言えば、今になって物事を始めて正しかったと思う。僕の音楽は経験、つまり自分自身が感じたり目にしたりしたことに基づいているから、(中略)つまるところ他の誰でもない僕そのものだということ。」
Obaroの口調は夢見心地で心ここにあらず、といった感じ。これは、彼がロンドン市内を移動中にインタヴューに答えてくれたからでもあるのだが、この上の空の感じは彼の作品にも共通している。その作風は一定のところに留まることを知らず、一貫性なく常に様々なジャンルの間を行き来しているかのようだ。彼が影響を受けているミュージシャンや音楽のジャンルというのも同様に混ざり合っており、Bad DreamやAt The Driveの名を口にしたかと思えば、サンバ、ハウス、ウッドベース音楽、エレクトロを列挙してしまう。「たまたま巡り合ったもので、面白そうだと思ったものを何でも聞いてるだけさ。」そしてこう説明する。「しばらくの間それを聞き、それが頭を離れなくなり、でも少し経つと次のものに移ってく。」
筆者自身、歌詞が無意味な言葉の連なりに成り下がってしまったポピュラー・ミュージックしか知らない世代の生まれなので(Lady Gagaやその類のアーティストを見よ)、誰もが共感できる考察に真剣に取り組んでいるGhostpoetのようなアーティストを目にするのは新鮮でもある。「いつまでも堂々巡り。いつになったら抜け出せるんだ? 稼いでもなければ、何かを成し遂げたわけでもない、いつも何かに立ち向かうだけ。」などという歌詞は、自ら苦労を味わってきたからこその真実味のある悟りに溢れている。「全ては生きているということ、人間たることの表れさ。僕は、自分のまわりの環境に大きく影響されるタイプのアーティストなんだと思う。」とObaroは言う。彼の作品に現れたこの「環境」を見てとることは容易い―彼が自身の考えを伝えるために使うロンドン独特の言い回しなどがいい例。
これは翻せば、海外の人々には共感しづらいということになるとは思いませんか?と聞いてみると、Obaroは沈黙し、深く考え込んだかのようになった。「もし歌詞の意味が分からなかったとしても、その曲の雰囲気、僕が伝えようとする何かに感情移入ことはできるはず。(中略) よく、完全に歌詞を理解したわけじゃないけど、感じはつかめたって言ってもらえる。謙虚でいる、ってことなのかな。」
その後話題はマーキュリー賞ノミネートのことへと移るが、これはBrownswood Recordingsと契約を結ぶ前、彼が「必ずや成し遂げたい」と感じていたことの一つだそうだ。Myspaceを通じて上Brownswood Recordingsからコンタクトがあった後、Ghostpoetは直接レーベルの人々と話す機会をもった。「このミーティングにはGillesも出席していて、僕の作品を聴いたり、今後どんな方向に進みたいのか、どうやって創作活動をしているのかなんて話をしたね。(中略) 彼は気取らずに僕の作品を純粋に気に入ってくれて、『じゃ、アルバム出そうか?』って一言うんだ。僕はそりゃもうOKに決まってる。」そう言うObaroはどことなく誇らしげであった。メイン・ストリームに逆行する旗手Gillesから太鼓判を押され、彼のレーベルに参加することを名誉と思っているに違いない。
最後に、2012年はどのようなことが待ち構えているか、探りを入れてみた。少しずつ掘り下げていったころ、来年リリース予定の新作のアルバムの準備中であることをほのめかす。将来的にコラボレーションの企画に関しては、しばらく黙りこんだ後、「コラボレーションみたいなことが無いわけではないけど、うまく行かなないこともあるからまだ話したくはないかな。」とだけ答えるに留まった。
Ghostpoetが来日する日も遠くないのでは? との問いかけには、「だといいね、日本へ行くのは物心ついた時からの夢だったんだ。もし叶うならぜひ行きたい。もう空港にすっ飛んで行くだろうね。」と興奮した様子で答えてくれたのだった。
Ghostpoetのアルバム、 Peanut Butter Blues & Melancholy Jamはこちらで販売中。 Brownswood Recordings.
執筆:Mark Birtles
翻訳:小堤 明日香
2012年2月27日
